たけるとひらり
僕は、ひらりさんが大切です。 思い返してみると、またわけのわからないことを言ってしまった。 ひらりさんはもともときょとんとした顔をしているけれど、それを通り越して一瞬ぽかんという顔をしたあと、黙って橙色の海を眺めていた。それに続く言葉が出て…
フェリーの上でたけるくんにキスをした。 私はいつも、フェリーでのひとときを、甲板のタラップを昇ったところにあるデッキで過ごす。一応、客室もあるのだが、よほど寒い日以外はデッキから離れてゆく景色を見るのが好きなのだ。 島から街へ行くときは、故…
いたっ。 突然、頭頂部をタワシのようなもので殴られたような気がして、僕は後ろを振り向いた。そこには誰の姿もなかったけれど、栗がひとつ転がっている。 僕はベンチから立ち上がり、殴りかかってきた栗をポンと蹴飛ばした。思いのほか遠くまで転がってい…
読書諸君。突然だが、私こと、もりもとひらり25歳は、夜の冷たい海で浮遊しながら満天の星空を眺めている。救命胴衣ごしの波にぷよぷよと背中をくすぐられながら。 おい!大丈夫か?つかまれ! 船員のおじさんが投げてくれた浮き輪にしがみつき、私は船のへ…
きょう何曜日?あ、木曜?あー、バイトかな。おがわたける20歳。 美術の専門学生。名前に反して、何においても長けてない。容姿は中の下。絵を描いても粗が目立つし、たまに書く文章は支離滅裂。恋愛下手。 あ、いきなり自分語りをはじめてごめんなさい。バ…