「火を放てば全てが炭酸水へと回帰してゆく」
――そう嘯いた少女は、2階の窓から放ったココアシガレットの箱と、血に染まった伝書鳩に真昼の左手を永延と振り続けている。
夢を亡くしたライターのオイルから流れだす青い炎
夢を見たままの乳母車に眠る「空白の殺人」
夢を墜としたはずのサーカスの悲劇と記憶
ココアシガレットの偽装工作は、いつかの少年或いは少女たちの、綿あめのような心に巣くう、赤い目をしたピエロの首つりすら助長した。
彼の笑みは赤い風船と孤独を許容したはずだったのに、老婆が揺らす揺りかごは許さざれる者としての『審判』の344頁が唸りをあげる。
幾度火を放とうと試みても、どうしてもココアシガレットは呼吸をなくしたままだ。
唇を潰す炭化した(ような)
焦げゆく死体とカテーテルのような、箱に閉ざされし甘味料。
砂糖の砂漠、渇ききった砂塵が私の肺を切り刻んでゆく。視界はいつも空白、幼き指先を濡らす炭酸水に変換されることを、いつも望んでいたのは――
私が描こうとした絵は、『ここだけのはなし』というタイトルだった。
けれど、その題目すら、ココアから溢れでる炭酸が掻き消してしまった。
円卓上に並べられた、道化師の縊死体と笑み。溺れるような演劇に、子供たちはどうしても最期の台詞を忘失してしまう。
「どうして?」
ココアシガレットを一つ、また一つと砕いてゆく日々に、いつしかコンバースの靴底にすら、塞ぎようがない穴が空いてしまって。
「火を放てば全てが終着点へと回帰してゆく」
私はそう叫んだ革命家の言葉を突き落とすことができず、今日も此処で笑っていた。
赤い伝書鳩が黄昏色に隠れてゆく刹那、その風切羽から流れゆく血が、刻み込まれた詞を柔らかに包み込んでゆく風景を描くことすら忘れてしまったのだ。
空っぽのまま、あるいは壊れてしまった感情を携えたココアシガレットの箱。
焼き尽くされた野原に取り残されたその箱を、独りぼっちになってしまった少女が再び拾い上げた時、冷え切ったココアに再び熱病が宿るから、と。
絶望と焦燥だけを泡立たせた、かつての炭酸水。
暗い影がゆらいゆらいで、あの日のココアシガレットをもし肯定すれば、彼らはこの羅列に取り残されなかったのかな?
秋空に想いを馳せて、最期のココアシガレットが砕け散る音を、私は虚ろに聴いていた。