SPECIAL EDITION

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ヨシオテクニカと十人の作家たち /ヨシオテクニカ

去年の12月、友人やTwitterのひとに『SPECIAL EDITION』の「ここだけの話」というお題について、なにかいいものはないかと訊いてまわっていた。9月にこの企画の話をいただいていたのにも関わらず、じつに12月末までなにも書いていなかったのだ。そのなかで、ある方から文芸についての話はどうかというお題をいただいたので、あ、それはいいですね。と思う。
読書はずっとしてきた。趣味という意識もなく毎日してきた。でもTwitterではあまり文芸にまつわる話はしてこなかったような気がする。
というわけでここだけの話、きょうは好きな作家の話をしてみたい。

 

  本から全てを学ぶ僕を見て
  大きいサングラスの
  彼女は無言で誘ってる
  「Mighty lovers」the pillows

 

そもそもどれくらい本を、おもに小説を、読んできたのかなとまず思う。
いにしえのmixiの日記に読書の記録をつけていたので3年ぶりくらいにログインしてみるとこんな数字がでてくる(mixi、憶えてますか? いや、知っていますか?)、なんでも2006年の5月9日から2016年の5月9日の偶然ちょうど10年間で、694冊の本を読んでいた。
どんなタイトルを何年何月何日に読みはじめて何年何月何日に読み終えたかということがそこには記されていて、眺めているとなにかなつかしい感じがする。だいたい5日で1冊読んでいることになり、いまと較べてこのころはそこそこ読めていたなと思う。そういえば当時は鞄に2冊入っていないと不安を憶えていたっけ。
もちろん記録をつけている期間の前後も読んではいるので、合計で1,000冊は超えているのかもしれない。もちろんもちろん、読書は量でも数字でもないのでこの情報にあまり意味はなくて、だから記録をつけるをやめてしまったのだけれど、でも押し入れにはたしかに読まれた書籍がつまっているので、その質量をまるきり無視することはできないのだった。
分野でいうと、純文学、エンタメ、ライトノベル、ミステリ、SF、エッセイがおもだったところかなと思う。あとは詩集とか歌集とかがすこし。時期ごとにじぶんのなかで流行があったりしたけれど、だいたいこのあたりが好きだった。
前置きが長くなってしまった。そんな読書の履歴のなかから、10名ほどとくに好きだと思う作家について語ってみたいと思う。ここからは「好き」しか云わなくなります。

 

  何気ない毎日を小説のヒーローに
  かさね合わせて安心してる
  「ダイアリー」GOING UNDER GROUND

 

中村航
デビュー当初のGOING UNDER GROUNDのジャケットを描いていた宮尾和孝による素敵な装画が目にとまって手にとった「ぐるぐるまわるすべり台」が中村航との出会いだったのだけど、読んだらなぜか"おれはこれが読みたかったんだ"と思ってしまう。なんか文章に漂う温度感のさじ加減みたいなものがすごくしっくりきて一瞬でめちゃくちゃ好きになってしまった。
このひとが書く、明るくもあり暗くもあり熱くもありクールでもあるみたいな主人公像がとても好きだし、こんなに軽妙でユーモラスに文章を操れたらなとひそかに思う。

 

とくに好きな小説「夏休み」

 

津村記久子
ワーキングプア、ネグレクト、パワーハラスメント、あたりがこのひとの小説のキーワードではあるのだけど、そんなある種暗めのテーマ感を支えている日常のおかしみや辛さや不運や幸運やちょっとした執着をさらっとみえるように丁寧に描く文章が僕は大好き。
こういうふうにものごとを描けてしまうと、ふつうの学校での描写とか会社での描写がぜんぶそこにあるかのようにきわめて自然に感じられてしまう。観察と、それを表に出すさまがとても優れているとなにを書いても高い解像度をまとってしまうんだなという感じ。
余談だけど、小説にサインしてもらっているときにRideの話になって津村記久子さんとおたがいに「いやRideは最高」「ほんとにRideは最高」って云いあえたのはいい思い出になっています。

 

とくに好きな小説「この世にたやすい仕事はない」

 

◇野崎まど
事実は小説より奇なりというのなら、じゃあ事実より奇妙にしてやろうというのが野崎まどの小説。まずきわめて突飛な発想があって、それを知識と筆力で物語にきっちりと落としこんでいてエンターテイメントさせるさまには、いつも感心してしまうし、とてもたのしませてもらっている。
そしてここだけの話、なんといっても描く女の子がいちいちかわいい。いわゆるライトノベルは女の子をかわいく書いてなんぼの世界みたいなところがあるのだけれど、いちいちかわいい。
ただこのひとはホラーみたいなのも大得意で、だから惜しげもなくそんな女の子たちが不幸な目にあっちゃったり、逆にあわせちゃう側だったりするのではらはらするし、まだ完結してない「バビロン」のつづきなんかは想像するだけで怖すぎて恐すぎて読みたいし読みたくない。

 

とくに好きな小説「[映]アムリタ」

 

西尾維新
作品リストを確認したら48冊くらい読んでいて呆然としてしまった。学生のころ本屋でアルバイトをしていて、店内に戯言シリーズのイラストで彩られたポスターが貼ってあるのを見たとき"こういう小説はいけすかないな"と思ってしまったのだけど、読んでみたら大変なことになった。なにか言葉と語彙のジェットコースターみたいな感じで圧倒されてしまったし、いまも圧倒されつづけている。
その豊富すぎる語彙について西尾維新は、語彙を増やすには辞書の通読がいちばんですみたいなことをさらっと云っていてぞっとしたが、たぶんこのひとはほんとうにそれをやっているし、そもそも書かれている小説自体もおおむね辞書みたいなところがある。
ちなみにこのひとは一日で二万字書けるらしくて、僕は一日二千字で歴史的快挙みたいなところがあるので、較べちゃだめなのだけど、ちょっとどうにかしたいですね。

 

とくに好きな小説「クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識」

 

佐藤友哉
怒りや乾きや焦燥感やこじらせ感が文章に乗っていてとても好き。僕はいわゆる純文学もいわゆるライトノベルも両方好きでたのしく読むのだけど、このひとは重さが出せるから軽さも出せるというか、その両サイドに足をつっこんでそこにある隔たりなんかをまったく気にせずに好きに行き来しちゃっているみたいなところがかっこいいよなと思う。
話が逸れるけど文芸においての"純文学か否か"という論争は、音楽においての"ロックか否か"とよく似ていて、どこもおなじようなことをやってるなと思う。こういう話題は居酒屋とかでやるのであればおもしろいんだけどね。
あとここだけの話、文章を書くとき"言う"と書かずに"云う"と記してしまうのはこのひとからの影響です。なんかね、やめられなくなっちゃった。

 

とくに好きな小説「ナイン・ストーリーズ

 

舞城王太郎
マシンガンとか高速道路みたいな文章がほんとうにかっこいい舞城王太郎。2、3行読んだだけでこのひとが書いたとすぐにわかるその文体はとても強固で、オリジナルな文体をもつということのすごさや、それこそがプロたらしめる理由であるということをいやというくらい思い知らせてくれる。
ここだけの話、文章を書いているとどうしてもじぶんだけの文体をもつということに憧れを抱いてしまうのだけれど、それは一朝一夕では手には入らないし、だれかの真似をするとかえって遠ざかっていくし、いったいどうすればいいんだみたいに途方にくれてしまう。
だからか、逆に圧倒的に個性的な文体でぶん殴ってくるようなこのひとの小説はとても心地よい。それにもちろん固有の文体をもっているだけで物語がグルーヴしていくわけではないから、このひとのすごみはそこだけではないのだけれど。

 

とくに好きな小説「ディスコ探偵水曜日

 

穂村弘
このひとだけ小説家ではなく歌人。歌集は枕元においておいて眠るまえにぱらぱらとめくるのがとてもいい。その短歌は青くて鮮烈でかっこよくてとても好きなのだれど、笑いをとりにいかない顔をして思いっきり笑わせにくる余技的なエッセイも大好き。
エッセイは観察力や表現力が求められるし出やすいというか、あとフィクションの力を借りることができないから文章の技術そのものがものすごく問われる過酷な世界だと思っているのだけど、いままで読んできたなかで穂村弘のエッセイがいちばんおもしろかったし好きですね。どれを読んでも気づけば笑ってしまうし、おかしみのある文章ってほんとうに好き。

 

とくに好きな歌集「シンジケート」

 

川上弘美
このひとの文章を評するとき、これを云うとどうしても陳腐にしかならないのだけど、でもこうでしかないから云ってしまう川上弘美の文章は"美しい日本語"すぎてまいってしまう。
丁寧で間があいてて言葉が選びぬかれていて、でも教科書的ではなくときに妖しさや怖さすら感じてしまうような文章。そしてその言葉にのっかってお話がきれいに流れていくのかというと、そうではなくて現世とあの世のような異界が交錯して、現実がゆらいでひやりとしてしまう瞬間がしばしばあってくらくらする。
ちなみにここだけの話、文章を書くとき漢字をひらくのが好きになったのは、このひとから勝手に影響をうけようとしているからのような気がする。

 

とくに好きな小説「七夜物語」

 

森博嗣
作品リストを確認したら91冊くらい読んでいて呆然としてしまった。なんというか、僕は森先生の途方もない知性にどうしようもなく憧れてしまっていて、もちろんそんなところには到底近づけるはずもないのだけれど、でもほんのすこしでも汲み取りたいという思いがあってページをめくりつづけてしまう。
そして、近づけなくとも、ひとは考えることをつづけるとこんなところまで到達できるんだなみたいなことだけは知ることができるような気がするし、頭はわるくたって、せめて考えることだけは続けるようにしようと思うし、思わせてくれる。

 

とくに好きな小説「青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light?」

 

村上春樹
高校一年生のころ友だちに「風の歌を聴け」を借りて読んだのがきっかけで、それ以来ずっと好きで、文庫で数えると53冊くらい読んだことになる。なんかこのひとはそもそも読書や小説のおもしろさを教えてくれたみたいなところさえあって、なので、どこがいいのか、どこが好きなのか改めて考えるのがかえって難しかったりする。なぜなら小説や文章の基準みたいになっているから。
それでも無理矢理あげてみると、文章のリズムがとてもいいところ、比喩のレベルが桁ちがいなところ、料理やお酒をとてもおいしそうに描くところ、会話や嘘や冗談が洒落ているところ、大胆さと繊細さを兼ね備えているところ、なんかがとくに好きだなと思う。
どの小説もほんとうに好きなのだけど、とくに好きな作品は「ダンス・ダンス・ダンス」で、長すぎる後日譚というか、大きな起伏がないのにとても長いところがなんか妙に好きなので、この小説をあげたいと思います。

 

とくに好きな小説「ダンス・ダンス・ダンス

 

  何度も読み返すよ村上春樹
  口調を真似してさ
  何度も読み返すよ村上春樹
  暗記してしまうまで
  「村上のリヴァース(215p)」まつきあゆむ