SPECIAL EDITION

SPECIAL EDITIONは日替わり月替わりのメンバーで毎日更新予定📖いろんなひとに読んでもらえたらいいなと思っています。みんなの毎日にぜひよろしくね。

ここだけにしか降らない雨 /北村灰色

 鳴りやまぬ雨音のリズムに、黒猫だけがそっとメロディーを奏でた。

 五月雨に燃ゆる紫陽花の藍色、五月雨に寂寞したブランコの嘆き――

 救済なき%、徐々に這いあがる水位に、光のない街は渇ききったネオンライトを求めて、蒼ざめた左手を永延と揺らし続ける。

 夜、救いようのない闇が暁にすら訪れて、少女は誤認した縊死体を嘆いていた。

 投げだされた肢体と長靴、水たまりに水彩の水色がそっと射しこむ……。

 埋葬された死体の真実は、蝙蝠のようなレインコートと、擦り切れた太陽のビデオテープだと、空白の審判が訴える。

 赤いセーラー服、白日が暴きだすかつての記憶だけが右目を抉って、ザザ降り雨。

 フィルムから解体された、あまりにも哀しき幽体。透き通った硝子越しに手を振るのは、いつも死者だったから、私の雨は未だに止むことがない。

……私の? 裸足から俯瞰した天井の世界は、幽かに反転して、唯、ただ私の視界が深い赤に染まりゆくだけ。

 私の白い足が終着点を忘却して、水気を帯びた宙空を彷徨うから、私を凝視するワタシは私の爪先に柔らかな傷跡を私がつけてしまったことにワタシは感情も無く私を打擲する私を私が縛りつけたままの私だった私の描く断崖から視えた潮騒の煌きと死んだ木。

 血と雨音、波打つ胎内に笑う、孤立への水没。マニキュアの色だけが検死室で鮮やか――

 鈍色のシーツとダブルベッドには、限りなく彼方へと堕ちた白磁が「死」を描きだすように、カーテンにしがみつく。

 とっくに消えた映画のラストシーンとサイレンを反響させるかのように、雨の音色が色彩を増してゆくから、理由もなく悲鳴は不協和音にはならなかった。

  Echo,Ecole,無慈悲なアンコールはいつかの彼の終わりをもたらしてしまう。あまりにも無垢に歪んだ砂漠、溶けることなきオアシスアイスで創られたカクテルが催す、フロイトの窓際とレムノンレムの境界線。

全てへの謝罪が水位に掻き消される時、私は自らの船に火を放つ夢を見た。

あの日伸ばした手は渇くことなく濡れたままで、自由を偽装するカモメすらも、あまりにも遠く、綿飴の積乱雲が徐々に炭化した影を携えてゆく。

未だ鳴りやまぬ雨が、物語を現実を、私であった物証の空想を混濁させてゆく。

睡蓮の太陽に温度計を投げ込めば、粉々に砕け散った紅が半透明に溶ける。

睡蓮の太陽に雨乞いの祈りを投じれば、言葉は言葉ではなくなる。

睡蓮の太陽は私の瞳にだけ映っている。

――ここだけにしか降らない雨が、未だに止むことがないから、私の体温は徐々に冷たくなってゆく。終わらないかくれんぼを続けるワタシと、裸の太陽すらも永遠の雨水を啜り続けているのだから。